「それでですね、私もうダメだと思ったんですそのとき。だってこーんな、190くらいあるんじゃないのっていう人にですよ。 なんかわらわら湧いてきて私囲まれちゃったんです。猫の子一匹這い出す隙間もないって多分あのことですよ」
「へえ」

私は大げさなモーションで一気に捲くし立てた。聞いてるんだか聞いてないんだか分からない顔で、黒髪の男が隣に座っている。

「ああ死んじゃう!ってそりゃもう怖くて・・笑わないでください私喧嘩とかしたことないんですあれ必死だったんです。 目え瞑ったとき、なんかえぐい音がこう・・・びしゃっ!どか!ばき!みたいな」
「語彙が少ないね」
「ほっといてください!で目を開けたら、その190軍団がごみみたいに転がってるんです、びっくりしましたよ」
「(ごみって)」
「で!で!で!それをやってのけたのは誰だと思います?」
「・・・・・さあね」

男は大きくあくびをした。(一番いーとこなんだから聞けよ!)

「黒い服着た小柄な人だったんです!それがあんな大人数を一瞬で!」
「・・・(ぎろ)」
「ぎゃあ!なんで睨むんですか!違いますよ、その巨人に比べれば体長が普通サイズだったというだけで・・(なんで私謝ってんの?)」
「・・・・・そいつに関してはそれだけなの?」
「実は逃げるように走って帰っちゃったんで(私が)、よく見てないんですよ、ね・・・はは・・笑っちゃいますね・・は・・」
「だめな子だな」
「なんか今ちっちゃい声でだめって言いませんでした?言いましたよね?」
「続けて」
「(!はぐらかされた)でも、ヒーローみたいでかっこよかったんですよね」
「ふうん」
「・・も一回会いたいなあ・・・・」

それで話を締めくくったとき、私は夕陽が沈みかけているのに気がついた。気がつけば辺りは暗く、公園にはブランコに乗っている私たちだけしかいない。

「話聞いてくれてありがとうございました!でももう帰らないと。この辺柄悪いのが多いから日が沈みきったら危ないですよ」
「へえ」
「(へえって!タモさんかあんたは!)危ないから早く帰った方がいいですよ」
「大丈夫だよ。ていうかソレ多分僕の後輩」
「え、後輩って」



(・・あれ?)


何かが口から出かかったとき、私はふと思った。昨日の出来事について熱弁を奮ってしまったが、


そういやこの人誰だっけ?



「あのう・・・・・ものすごく言いづらいですけど、あなた誰ですか?」


男はこちらを見てにいと笑った。


「君のヒーロー」


あなたの隣