「人間も案外侮れない」 こいつがそーいうこと言うの! 私はびっくりして口を開けたままネウロを見た。食べていた饅頭のかけらがポロポロと膝に落ちる。 「吾が輩に従属しない愚かさと芯の強さは驚嘆に値する」 「本性見せたネウロに従属しない人とかいる?それ本当に人?」 「馬鹿を言うな。その筆頭である貴様が」 「な・・!」 私がこれまであんたによってどれ程の自由を奪われてきたか!まさかそれを自覚していなかったのか!私は目の前で平然と喋る魔人が信じられなかった。こいつの目に私が「従属していない」と映っているなら、一体何が従属なのだろうか。およそ人智のおよばないところであろう。どう返していいか分からずただ口をぱくぱくする私に向かってネウロは言った。 「貴様は常に吾が輩の意に反抗している。今このときも」 「どこが!ここ2日で3軒も殺人現場回っといて何言ってんのネウロは」 「貴様は吾が輩の意の侭に動くのか?」 「あんたが無理にでもそうさせるんでしょ。しなきゃならないじゃない」 「ならば吾が輩にもっと献身的になれ」 私は今何が起きているのかと思って、ネウロの瞳を覗き込んだ。これは新たに開発された、私に何らかの精神的負荷を与える方法ではないだろうか。しかしネウロはあまり嬉しそうな様子でもなかった。これが拷問ならネウロは皿に山盛りの魚を見た猫のようにはしゃいでいるのだ。ネウロは神妙に続けた。 「深く関心を向け、吾が輩の為に何物も惜しむな。どんな他者よりも吾が輩を優先するのだ」 私はこれまでにないほど呆気に取られていた。ネウロはそんな私を見てふっと嘲るように、 「出来ないか?命知らずなことに吾が輩の力を知って尚貴様はそれを別の人間に向けるのだ」 そう言って瞬く間に姿を消した。 私は暫らく考えていたが、ネウロはすごく遠回しに「自分を愛せ」と言っていたのではないだろうかという考えに行き着いた。私がネウロではない別の人間を深く慈しんでいるのを彼は馬鹿らしく感じていると思っていたのに、違っていたのだろうか。魔人の情緒は私にはとても考えが及ばないが、ネウロが「謎」以外のことに関して深く心を動かしたと考えると、形容できない複雑な思いを抱かざるを得なかった。 未必の恋 title by:瞬きよりも速く 080908 |