抜けるような大空には入道雲、草木の生えぬ渇いた大地。
 捲き上る砂塵で薄汚れたフロントガラスの向こうにはどこまでも続く長い路。

「ねえ、ハンター試験ってどんなことすんの?」
「え?」
「アンタたちが降りる町、けっこー田舎だけど」
「うーん。正午に海岸通りのカレー屋に集合ってことしか知らされてなくて」
「カレー屋ぁ?、それぜったい団長とシャルに担がれてるよ」
「えっ」

 すぐさま後部座席からシャルナークが顔を出す。

「おいおい人聞きがわるいなあ。集合場所は毎年そんな感じなんだってば」
「ふーん。地下にでも連れてかれんのかね。ところでシャル、アンタもう気分はいいの?」
「いや、まだ気持ち悪い……。水とって」
「顔色悪っ…。ハイどうぞ」

 ハンドルを握るマチはミラーを一瞥し、ため息をついた。

「はあ。アタシ一人で発つつもりだったのに。相乗りで同じ方向って何?」
「フィンクスたちが自分たちの車壊したせいだろ。で一台足りなくなった」
「車ってそんなホイホイ壊れます?」
「せめてシャルと団長が替わればよかったのに。酒くさいんだよね」
「冷たいなー。オレこの状態であっち乗るのぜったいムリだって」
「まあまあ。シャルナークは横になんなきゃだし。あっちは寝心地よくないでしょ」
がいっちばん乗り込むの早かったよね」
「アンタがあんなに早く動くの初めて見た」
「まあまあ、いいじゃないですか」

 しばしの沈黙。エンジン音。

「…そういえば、フィンクスとフェイタンはこの先にどんな用があんの?」
「ケンカだよ。旅団を狩るって息巻いてる賞金首ハンターの本拠地。オレたちの目的地のすぐ先の街だから」
「アイツら好きそうだよねー、そういう奴を逆に狩るの」
「ヒェッ…おそろしい…」
「あっ。そういえばオレ、さっきフィンクスからにって預かったものあるんだよね」

 後ろからぬっと腕が差し出され、てのひら大の赤い缶が私の膝の上に乗せられる。

「……ナッツ缶だ」
「餞別だって」
「えっ」
「へえ。フィンクスらしくないね」
「あと伝言も。“俺の100万ジェニーを頼んだ”ってさ」
「なんの話ですか?」
「試験の合否、リタイアに賭けてた」
「!???」

 のけぞったせいで一瞬車体が揺れた。人の合否を賭けのタネにしてるのか。昨夜のことが蘇る。

「夜通し隣でデスメタル聴いてたのは妨害工作かよ!!おかげで寝不足なんだよ!!」
「くくく…」
「マチ笑いすぎですよ」
「二人とも後ろ見てよ。フィンクスたちすっごい詰めてきてるけど」
「ホントだね、バンパースレスレだし。…運転席はフェイタンか。もしかして仕掛けてきてんの?」
「ヒェッ…」
「街まで50キロもあるんだよ。時間も余裕だしのんびり行けるって。オレまだ寝たいから…」

 シャルナークが悲痛な声を上げたとき、ポケットの携帯が震えた。

「あ、クロロからメールです」
「…」
「…」
「“港まで”だって」
「…」
「団長ってこーいうバカ、たまーに乗っかるのよね。キャラ掴めないっていうか」
「マチ、どうします?乗る?」
「オレはゆっくりで…」
「アンタはどうしたいの」
「ブチ抜きましょう、地平線の彼方まで」
「?!」
も相当バカね。いいの?踏むよ、アクセル」
「オェ…二日酔いがもどってきた…」
「アタシのリアシートで寝かせないよ」
「!!」

 路傍にはカシューナッツのキャラクターが手招く看板。行き先は陽注ぐ海岸地帯、原産地なのだろうか。目的地まで50キロと書いてある。
 開け放った窓から風が吹き込んで、散々だった初仕事の夜が重なった。森の中をバカみたいなスピードで走り抜けて、結局車を壊されたんだった。あれはほんとにひどかった。また似たようなことやってるじゃん。
「やばいあっちもアクセル踏んできた!!」
 でも今日はすっごく晴れてるから、いいや!



カシューナッツ・ア・ゴーゴー


200916